【短期集中連載・第1回】たくさん転職するのは、正しいことなのか?【文筆家/岡田育】

岡田育




ランウェイウォーカーズをご覧の皆様、初めまして、岡田育と申します。このたび「転職を考えている女性へ」というお題をいただいたので、自分の体験を書いてみたいと思います。

現在、私はニューヨークに住んでいます。日本語でエッセイを書いたり、英語圏向けにデザインの仕事をしたりしています。いわゆる二足の草鞋というやつですが、現状なかなかにアンバランスで、あまり大きなことは言えません。「こうすれば必ず上手くいく!」と働き方をアドバイスできるほど、自分自身の生活が安定していないんですね。

今の私は「フリーランス」という形態で仕事をしています。響きだけ聞けば素敵ですが、組織に属さず、その場その場の契約限りで保障もなくフラフラ働いている、という意味です。呼ばれて行った先で頼まれたことを何でもやって、その分だけ報酬を受け取る毎日。医師や弁護士のように資格があるわけでもなく、何年続けても確固たる専門性を築くのは難しい、そんなジャンルの仕事ばかりです。

肩書は日によって、一日の中でさえ、ころころ変わります。顔も名前も表に出るような仕事と、どこにもクレジットの残らない裏方仕事とが混在していて、秒速で大金を稼ぐ案件もあれば、何年も仕込んでいるのにまだ一銭にもなっていない案件もあります。数年後に同じことをしていて食っていける気もしないので、お声が掛かったら取り急ぎ、どこへでも飛んでいって、何でもするようにしています。

求人情報メディアをくまなく読んでいるような方の大半は、「あんまり羨ましい働き方じゃないな……」とお思いのことでしょう。そりゃそうですよ、完全に同意です。いやぁ、定職に就くって、本当に素晴らしいことですよね。私もかつては正社員として会社勤めしていたので、そのお気持ちは非常によくわかります。毎月毎月、同じ額のお給金が同じ口座に振り込まれることの圧倒的安心感よ!

ただ、私はこうして元の性格がネガティブに後ろ向きな分、今までに経験してきた人生の転機については、すべて「いいほうに、転んだ」と信じています。自分にそう言い聞かせないとやっていられない部分もありますが、自分に言い聞かせ続けていると、本当にそう思えてくるから不思議です。今となっては「転んだほうが、いい」とさえ思っています。

一つ目の会社を辞めようとしているとき、ある先輩から言われたことが今も強く印象に残っています。同じ職場に勤めたことはないものの、同じ業界の大ベテランで、自身も何度も転職を経験している人です。

「若いうちに会社を転々とするのは大いに結構だが、辞めるときはマイナスではなく、プラスの理由を見つけてからにしろ」

上司が嫌いだから辞める、給料が低いから辞める、といった負の理由での決断は、それ以外にたくさんあるはずの、その仕事のよい面を見落とすことにもなりやすく、数年経ってから取り返しのつかない後悔をする可能性も高い。やりたいことで起業するから辞める、好きなものを見つけたから辞める、もっといい環境に移れるから辞める、そうしたプラスのきっかけ、「時が来る」までは今の場所で頑張ってみるべきだし、資格を取るとか融資を受けるとか海外で働くビザが下りたとか、自分でプラス条件を最大化してから辞表を書くのでも遅くないよ、というアドバイスでした。

幸いなことに、私に訪れた転機はどれもプラスばかりでした。裏を返せば、プラスになる時が訪れるまで行動に移さなかった、とも言えます。32歳までの私は世に言う「結婚できない女」キャラとして夜な夜な遠吠えしていましたが、棚ボタのように結婚した今となっては「時が来るまで、しなかっただけだ」と言い換えることもできる。そんな話と同じで、何事も考えようですよね。

定年まで勤めると思っていた最初の会社を若くして辞めたことにも後悔はないですし、今、アメリカで大企業の採用面接を受けては落ちまくっている状況も、ゲラゲラ笑いながら楽しんでいます。「どうせ短い一生のうち、経験できることは、多ければ多いほどいい」と考えているからです。まぁ私に限らず、きっとほとんどの人が、そう考えているんじゃないでしょうか。

でも、「多くのことが経験できる」という言葉の意味も曖昧です。一つ所に長く踏みとどまっているほうがコツコツ実績を積み上げていける場合もあれば、短期的にあちこち動き回って場数を踏んでいったほうが可能性が増える場合もあります。あなたはどちらに向いていると思いますか? そんなことを考えるきっかけとして、しばし私の身上話にお付き合いいただければと思います。

岡田育(おかだ・いく)
文筆家。出版社勤務を経てエッセイの執筆を始める。著作に『ハジの多い人生』(新書館)、『嫁へ行くつもりじゃなかった』(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著『オトコのカラダはキモチいい』(角川文庫)。現在はNY在住。
http://okadaic.net/

岡田育






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