経営に必要な「人と働く力」を学ぶため、新卒でリクルートへ
立命館大学在学中に事業をしながら、社会勉強も兼ねて複数社のインターンを経験しました。そのひとつがリクルートです。インターン後、リクルーターの方とのランチがきっかけで人事部長とお話しすることになり、その場で内定をいただきました。「リクルートで働けるんだ」と驚いたことを覚えています。
インターン中に、社員の方々が楽しそうに働く、会社の雰囲気を体感していました。のびのびとした私の性格にも合っていて、仕事を面白がりながら違和感なく働けると思い、入社を決めました。
卒業後に自分の事業を広げる道もありましたが、当時は人と気持ちよく仕事をするためのコミュニケーションや環境づくりに苦手意識があって。一度は会社員になって学んだほうが、やりたいことを叶える近道になると考えました。リクルートでの経験は今の事業にもつながっていて、良い選択だったと思っています。
SNSで集客する時代の到来を肌で感じる
入社後は、結婚情報誌『ゼクシィ』の部署に配属され、式場に向けたソリューション営業を3年半、経験しました。たとえば、集客に困っているお客様には誌面への掲載を案内するだけではなく、一緒に商品をつくったり、成約につながる動線を設計したりと、課題解決に向けた支援をするのが仕事でした。
私の場合は特に「誌面ではカバーしきれない部分を、SNSも活用して集客する方法を一緒に考えましょう」と提案するスタイルで、お客様との信頼関係を築いていました。そんな中で訪れたコロナ禍。結婚式を挙げる人が一気に減りましたが、「SNSに力を入れていたおかげで集客がどうにかなった」というお客様が複数いらっしゃって。
そのときに「これからはSNSの時代だな」と思ったんですね。試しに別の会社にもSNS運用を提案してみたところ、運用代行のお仕事をいただけたんです。運良く成果も出せたので「これはいける!」と思い、会社員を続けながらSNSマーケティングの副業を本格的にスタートさせました。
副業の手応えを感じて独立へ
入社1・2年目は、仲間と一緒に大きな目標を達成することが楽しくて、それがモチベーションになっていました。ただ、副業で自分の事業を動かすようになると「リクルートは私の会社じゃない」という感覚が強くなっていって。
会社のブランドがあるからこそ、できていることが多いのはわかっていたんです。それでも、自分の事業に力を注ぎたいという気持ちがだんだん大きくなっていきました。
次第に、同僚と話や価値観が合わなくなっていくのを感じるようになりました。「目標に向かって頑張っている仲間たちの邪魔になってしまう」「組織の一員として働くのは難しいかもしれない」と考え、退職を決意しました。
2021年5月に独立し、Instagram・TikTok・X(旧Twitter)の運用代行やコンサルティングを始めました。副業の延長だったこともあり滑り出しは順調でしたが、労働集約型のビジネスなので一人では回しきれず、いろいろな人に支えてもらいました。
身近な人の現実が、障がい者雇用に向き合うきっかけに
当時、リモートワークで動画編集や画像制作を担当していたアルバイトの女性との出会いが、障がい者雇用について考え始めるきっかけになりました。
彼女は、とても丁寧な仕事をして、パフォーマンスも高い方でした。実際に会って話をする中で、精神障がいがあることを打ち明けてくれたんです。正社員として働きたいけれど、出社が困難な状況。さらには「SNSの仕事をやりたいのに、任せてくれる会社はない」とのことでした。
また、私の友人で本当に絵が上手な子がいます。久しぶりに会ったら、就職がうまくいかず、今は就労支援施設でボールペンを作っていると聞いて。「あんなに絵がうまいのに?」と、一緒に仕事を探してみましたが、やっぱり見つかりませんでした。仲のいい友人が自分の才能を発揮できていないのを見て、もったいないと思ったんです。
実はその頃、SNSの運用代行だけでは事業の成長は難しいと感じていて、「SNSと何かの掛け合わせ」を武器にした商品をずっと探していたんです。あるとき「SNS運用代行の仕事を障がいのある方が担当することができたら、これまでの私の経験と知見も活かしつつ、働けなくて困っている方の役に立てるかもしれない」とひらめきました。直感的に「これだ!」と思いましたね。
たまたま知人が就労支援事業をやっていて詳しい話を聞けたこともあり、私が始めるための条件がどんどん揃っていきました。ここまできたら「自分でやるしかない」と思い、2023年に就労継続支援A型事業所を宇都宮市で開設しました。
高いスキルがあっても就職先がない。A型事業所の運営で見えた現実
運営するA型事業所では、障がいのある方々の中からSNSができるクリエイターを育て、就職による自立を目指していました。支援の結果、利用者の皆さんはかなりレベルの高い仕事ができるまでに成長しました。
しかし、SNS関連の仕事の多くは東京に集中しています。いざ就職先を探そうとしても、東京に出たいという人はほとんどいませんでした。家賃も物価も高いですし、育った環境を離れて、やったことのない仕事をするのは誰でも不安ですよね。
そこで、地元で仕事を探してみても、彼ら・彼女らが頑張って磨いてきたクリエイティブスキルを活かせる場所はありませんでした。結局、就労支援施設に通い続けることになり、本当の意味での自立まで支援できなかったんです。
また、A型事業所は国からの給付費で運営されていますが、その仕組み上、給付費が利用者の賃金アップに必ずしも結びつくわけではありません。この仕組みが本当に日本のためになるのか、疑問に思うようになりました。
SNS×障がい者雇用。「MEDIAVOLT」で働く場をつくる
そんなとき、株式会社エスプールの創業者である浦上壮平さんとお話しする機会がありました。同社は農業分野で障がい者雇用の支援を行っています。私の課題感をお話ししたところ意気投合し、このご縁がきっかけで、2025年11月に3volt株式会社を設立しました。疑問を抱えていると、すぐにご縁が巡ってくる。本当にありがたいですね。
3volt株式会社では、企業のSNS運用と障がい者雇用を掛け合わせた「MEDIAVOLT(メディアボルト)」を展開しています。SNS運用業務に関する専門のトレーニングを受けた障がい者クリエイターが企業のSNS発信を担います。仕事はできるのに働く場所がない障がい者人材と、法定雇用率の達成とSNS発信の強化を両立したい企業。両者の課題を同時に解決するサービスです。
MEDIAVOLTを導入した企業に雇用された障がい者人材は、東京・池袋にある当社のサテライトオフィスで、SNS運用や動画編集などの業務を担当します。業務の伴走支援、キャリア構築・定着支援をするスタッフが常駐しており、障がいのある方が安心して働ける環境を提供しています。
目指すのは、障がいがあっても働ける人を増やすこと
企業にとっては法定雇用率の達成にもつながりますが、私たちが本当に解決したい課題はそこではありません。向き合いたいのは、障がいのある人の多くが企業で働けていないという現状です。
私たちが目指すのは、「就職できたら終わり」ではない支援です。一人一人が自分のやりたいことや生き方と向き合い、それを実現できるようサポートすることで、企業で自分らしく働き続けられる人を増やしていきたいと考えています。
これまでに約20人の障がい者人材を企業へ紹介してきました。社内では「障がい者人材が自分の思うように働けていない現状、まずくないですか?」という社会への問いをメンバーと共有し、日々の支援に取り組んでいます。
1,000人の紹介実績で、モデルの再現性を社会に証明したい
これからは、障がいの有無に関係なく、誰もがやりたいことや働き方を選べる世の中にしていきたいです。適切な機会とサポートがあれば、障がいがあっても自立して、望む人生をデザインできるんです。
ただ、今の日本には「障がい者は保護すべき対象」という考え方がまだ根強く残っていると感じています。私たちが率先して社会に提言し、障がい者雇用の新しいモデルをつくっていきたいですね。
そのために、私たちが提供する「MEDIAVOLT」のモデルに経済的なインパクトがあり、実現可能であることを証明していかなくてはなりません。再現性のあるモデルだと認めてもらうための目安として、まずは1,000人の紹介実績を掲げています。5年以内には達成したいので、来年度に新たに2拠点を開設する予定です。将来的には47都道府県への展開も考えています。
単純に紹介数を増やし続けるのではありません。障がい者人材の一人一人と丁寧に向き合い、彼ら・彼女らにとってのいい結果をひとつずつ積み上げていきたいですね。
キャリアに悩んだら「何を正解にしたいか」で選べばいい
働く女性には、就職・転職・結婚・子育て……と、人生の節目ごとにたくさんの選択肢があります。
悩んだときには、何が正解かを考えるのではなく、何を正解にしたいかを考えて行動したら、全部がクリアになるのではと私は思います。どの道を選んでもつまずく可能性はあります。だからこそ、選んだ道を自分で正解にしていけばいいんです!
そもそも、悩めること自体が素晴らしいですよね。悩んでいる時間や気持ちも大切にして、その瞬間を楽しんでください。
(プロフィール)
谷口佳穂
3volt株式会社 代表取締役。大学在学中から事業を手がけ、卒業後はリクルートに入社。営業職を務めたのち、SNS運用代行の会社を起業。就労継続支援A型事業所の運営を経て、2025年11月に3volt株式会社を設立。SNS運用と障がい者雇用を掛け合わせた「MEDIAVOLT」を展開している。
(2026年10月取材時点)
3volt株式会社


