親を支え、企業の意識を変え、若者の就労を応援する!【認定NPO法人育て上げネット/古賀和香子さま】

古賀和香子




今回のインタビューは、認定NPO法人育て上げネットの古賀和香子さんです。若者の就労を支援するというNPO法人の職についた経緯や、今の若者の就労を取り巻く環境などについて、お話を聞かせていただきました。

増えている女性のジョブトレ利用者

認定NPO法人育て上げネットでは、15-39歳までの若年層に対して就労基礎訓練プログラムを提供する「ジョブトレ」や不登校などで家にひきこもっている子どもを持つ母親を支援する「母親の会・結(ゆい)」の運営、若者のインターン先や寄付してくれる企業の開拓などをしています。

「ジョブトレ」の利用者は一度学校で不登校などを経験したために社会に出るのがうまくいかない人もいれば、働いた経験はあるけれど頑張り過ぎてしまって折れてしまった人、就活がうまくいかなかった人などが多いですね。高校生も増えています。

徐々に女性も増えていて、男性7:女性3ぐらいの割合になっています。元々女性は仕事がなくても「家事手伝い」と言える部分があったので、私がここで働き始めた12年前には女性はいなかったんですよね。時代が変わってきたなと感じます。

男女の性差は感じませんが、ジョブトレでは男性より女性の方が早く就職していうことも珍しくありません。ただ、親子関係などで精神的な弱さを持っていたり見えない形でも心の闇を持っていることがあるので、働き続けるという部分では長い目で見ていく必要があると感じています。

支援職につくきっかけはあのドラマだった

古賀和香子

私は、大学時代に母親を亡くしました。それまでは親が敷いてくれたレールにうまく乗って特に困ることもなかったんですけど、母親が亡くなって父親もメンタル的に参ったし、家族がバラバラになりかけました。その時に、自分の家族でもこうなってしまうということは、家族がいない人はどうなってしまうんだろうと思ったんです。

同時に、通っていた大学に通信制もあったので通信制の人たちとゼミで一緒になって、働いて学費を稼いでいたり、社会人になったけどやっぱり勉強したいと戻って来たりしている姿を見たときに、自分とのギャップを感じて「なんて恥ずかしいんだろう」と落ち込んで。無知な自分に気づき、そのときはじめて、自分が社会に出て何ができるのか模索しなければと感じました。

そんな風にモヤモヤしていたときに児童養護施設を扱ったドラマを見て、ボランティアをしてみたんです。当時は就職氷河期だったし、自分が何をやりたいのかもわかってないし、留学でもしようかなとふわふわしてたんですが、ボランティアをするうちに、そういう仕事につきたいと思うようになりました。

施設を出た子どもたちは、その後どうなるんだろう・・・

でも、どこも採用してくれなかったんです。この分野に関して知識も経験もなかったので、結構厳しいことも面談で言われて。それで資格を取らなくちゃと思って。唯一雇ってくれた学童やいくつかの児童養護施設でバイトやボランティアをしながら、夜間の社会福祉専門学校に通って社会福祉士を目指しました。

働くのは児童養護施設でいいのかも悩んでいろんな施設を見たんですけど、当日18歳で施設を卒園なければならなかった子たちはその後どうなるんだろうというところが引っかかったんです。実際、子どもたちは卒園後は施設に相談しにくいと言っていて、相談できる場所を探していたんですよね。

そんなときに友人から育て上げネットのことを教えてもらって「こんなところがあるんだ」と驚きました。最初はボランティアでしたが、「ここでやっていけば、卒園後に相談できる場所を作れるんじゃないか、ノウハウを作れるんじゃないか」と思い入職しました。父親には大反対されましたけどね。

「できる大人が、何でここにいるの?」

古賀和香子

実際に入職してみると、NPOってボランティアでしょ?という見方があったりとか、ニートって理解されていないんだな、ということを感じました。私自身、最初にボランティアに来た時は「できる大人が何でここにいるの?」という衝撃を受けたので、理解してもらうのって難しいんだなと思いました。

でも、能力はあっても人間関係でつまづいたりする自信のなさを一人で乗り越えるのは厳しいですし、社会に出てうまくいかないことが続いて、辞めてしまわないように、そして、自信をもって、もう一度本来の自分を取り戻すための支援は必要なんですよね。

実は彼らにとっては、彼らをまったく知らない地域の人や企業の人に評価してもらうことが一番の自信になるので、その機会を作って行くことが大事だなと感じています。同時に、その背景に何があるのかという分析をしてくのも私たちの大事な仕事だと思っています。

人は、いろんな経験をするからこそ輝ける

彼らを通して、何歳になっても人は変われるとか、いろんな経験があるからこそ輝けるということを教えてもらっています。育て上げネットを卒業して働き始めた人たちが、「恩返しをしたい」と働いている企業でインターンを受け入れてくれたり、セミナーで自分の経験を話しますと言ってくれたりする姿を見ると、本当に勇気をもらえるんですよね。自分も家族も、だれでも無業になりえるけれど、道はあるんだなと。

一方で虐待もそうなんですけど、育てている親がどういう環境で育ったかとかいろんな環境が影響しています。ただ就労支援をするだけでなく、親のトラウマや気持ちを整理したり家族関係の修復を図ったりするためには、いろんな知見やノウハウがないと難しいとも感じています。

また自分は歳を重ねていく中で、時代によって若者が変わっていくので、若者をどう理解し、どう支援するのかというのは課題ですね。そこは20代のスタッフをどう育成するかという部分ともつながってくるので、じっくり話を聞いてあげたり、期待しすぎないけど期待していることは伝えるみたいな、そこのバランスの取り方を学んでいます。

企業の意識を変え、親が相談できる場所を増やす

古賀和香子

この仕事って、最終的には若年無業者を減らし予防していくことが目標ですが、そのためには、企業の意識を変わるのが最優先かなと思っています。履歴書や経歴のブランクを見るのではなくその人自身を見て判断してくれるように。ですので、これからは企業とただ連携するだけではなく、企業の意識が変わるようなアプローチをしていきたいと思っています。

そして、「母親の会・結」を全国展開したいと考えています。虐待って、行政も児童相談所もいろんなことをやっているのに、なくならないんですよね。私は、虐待を減らすための一つの答えが家族支援だと思っているので、「結」を展開することで親が不安になった時に気軽に相談できる場所を増やしていきたいと思います。

若い人たちを求めている、温かな企業はちゃんとある

この仕事をしていて感じるのは、若い人たちを求めている企業は意外にあるということです。私たちが連携している企業は基本、若者を育てたいと思ってくれています。大企業じゃないけれどもすごく温かい、そういう企業があることを、この記事を読んでくれている方たちに伝えたいですね。

合う、合わないはそれぞれあるので、いろいろと扉を叩いてみるといいかなと思うんです。ネットに「若者 無業」と入れて検索すればいろんな支援機関が見つかります。支援機関を通していろんな人と会うことで、自分には見えていない可能性や道を見つけられるので、ぜひ活用してほしいですね。

古賀和香子

プロフィール

古賀和香子

社会福祉士。認定NPO法人育て上げネット勤務。若年者就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」を担当しながら、若者の面談や就労訓練のインターン研修先となる企業などとの連携に取り組んでいる。趣味はミュージカル。「アメリカにいた小学生高学年の時に、初めてオペラ座の怪人を見た時の衝撃は忘れられないですね。それからブロードウェイにハマって、学生時代はミュージカルの制作をしていたこともあります」

育て上げネット https://www.sodateage.net




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RUN-WAY編集部

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