飲食業との出会いは学生時代のアルバイト
初めて飲食店に関わったのは、学生時代のアルバイトでした。広島から上京してきた当時は下北沢の近くに住んでいて、おしゃれなお店で働く姿に憧れていたんです。
アルバイト先は情報誌に頼らずに自分の足で探したくて。下北沢の街を歩きまわって、雰囲気がよさそうなダイニングワインバーの店頭に求人の張り紙があるのを見つけて応募しました。
そこでの仕事はホールでの接客でした。キラキラしたバイト生活を始めるつもりだったのですが、そこは内輪ノリの激しい、アンダーグラウンドな雰囲気のバーだったんです。
厳しく癖の強いマスターのもとで鍛えられました。多様な背景のお客様と接するなかで驚きや学びもあり、チェーン店では得がたい濃い経験を積めたと思います。
コロナ禍の影響で内定取り消しに。就職浪人中に秋葉原で経験を積む
デザインの専門学校を卒業後、グラフィックデザイン事務所に内定していました。しかし、当時はコロナ禍で、内定が取り消しに……。ニュースで見ていた出来事が自分にも起きて、かなりショックでしたね。
その後は「若いうちにしかできない経験をしたい」と思い、今まで触れたことがなかった秋葉原のカルチャーに触れてみることにしました。職場に選んだのはコンセプトカフェ。そこで接客しながら就職活動を継続していました。
コンセプトカフェでの接客業は想像していた以上に面白く、オタクカルチャーに触れずに生きてきた自分にとって刺激的な体験の連続でした。お客様から、いろいろなアニメ作品を教えてもらったり、たくさんの差し入れをいただいたり、また会うのが楽しみになる方も多かったです。
頻繁に会いに来てくれた方は数年経っても鮮明に覚えていて、SNSでつながっていなくても「あのお客さん元気にしてるかな〜?」と思い出してしまいますね。
秋葉原のコンセプトカフェで働いたことによって私自身が持っていた偏見や考え方が変わり、今の仕事スタイルにもつながっています。
就職した会社がブラック企業で休職へ
1年間の就職浪人を経て、親を安心させたいという気持ちから、IT企業のWebデザイナーの仕事に就きました。Photoshopでグラフィックを制作し、完成したものをエンジニアに渡すのが主な役割です。
ところが入社してみたら、いわゆるブラック企業だったんです。9時に出社して18時には退社できるので一見ホワイトなのですが、自分の力不足もあってか作業工数が足りず。デザインチームのメンバーに迷惑をかけてしまう申し訳なさから、仕事を持ち帰って朝の3時まで仕事をする生活を続けていました。
そんなある日、体が先に限界を迎えて休職することに……。休職中は寝たきりで廃人のようになってしまい、気持ちとは関係なく勝手に涙が出てくる日々でしたが、服薬したり、たくさん睡眠を取ったりして何とか回復できました。
転職後、本当の自分の気持ちに気づき、飲食業へ戻ることを決意
体調が回復したあとは、もともと興味のあった美容業界へ。美容整形外科で、Instagramの投稿をつくるSNS運用の仕事に転職しました。未経験の領域でしたが、新しいことへの挑戦が好きなタイプなので仕事を覚える苦労はなかったです。
ただ、テンプレートに沿った作業で「できるけれど楽しくはない」「やりがいはない」という感じでした。
そんなとき、学生時代のアルバイトや秋葉原で働いていた頃の思い出が何度もよみがえってきて。振り返ると、お客様と一緒に過ごす楽しい時間、コミュニケーションから生まれる会話、人の気持ちが動く瞬間に立ち会える嬉しさが飲食業で働いていたときにはありました。
「やはりお客様と直接関わる仕事を続けたい。お客様や自分の周りにいる人を、どうにかしてときめかせたい」という自分の心の声に気づき、飲食業に戻ることを決めました。自分の信念・気持ちに正直に、これから進む道を選び直せたことは大きな転機だったと思います。
飲食店で働くなかで経験と学びを蓄積
飲食に戻ろうかなと仕事を辞めたタイミングで、知人が経営するバーのスタッフ募集がちょうどかかっていたので応募してみました。すると、ありがたいことにスタッフとして働かせてもらえることになって。
こぢんまりとしたお店だったので、作業自体は難しくありませんでした。けれど、お客様同士の距離が近くなる分、ケンカが起こったりお客様がふと泣いてしまったりなど、接客対応に配慮や状況判断が求められることもありました。おかげで対応力が鍛えられたと思います。
大変なこともありましたが、お客様の人生の節目に立ち会えたり、おめでたい報告を聞けたりと、素晴らしい経験がたくさんできました。
お客様が旅行した際にお土産をいただくこともあって。品物以上に、旅先でお店や私のことをふと思い出してもらえることが嬉しいし、ありがたかったですね。
これまでの飲食店での経験は、たくさんの学びを与えてくれました。そのひとつが「お客様は飲食物そのものではなく、お店の雰囲気や居場所に対して対価を払ってくれている」ということです。
かつての私は「食べ物・飲み物を買うために飲食店に入る」という考えでしたが、自分で働いていくうちに、そうではないと気づきました。お店の空間や雰囲気づくり、お客様との間に生まれるコミュニケーションの在り方は、現在の店舗づくりの根本になっています。
自分のお店を持つ夢を叶えるため独立を決意。開業準備に奔走
飲食店で働き続けるなかで「ふと帰ってきたくなるような、誰かのセカンドプレイス・サードプレイスになり得る自分のお店を持ちたい」という想いが強まってきました。自分に会いに来てくださるお客様が増え、提供したい体験も固まってきたため、本格的に独立開業の準備を開始することにしました。
開業準備で一番大変だったことは物件探しです。良い物件が見つかっても、申し込みで何度も断られて。「新規の飲食店をオープンするのは無理なのでは」と、何回も絶望しました。結局、物件が決まるまでに1年半もの期間がかかりましたね。
そして内装費を予算内に納めることにも苦労しました。業者から予算内と言われていた見積もりが、契約直前で150万円もオーバーしていることがわかったんです。
交渉を重ねても予算内に抑えられなかったため、自分でできる部分は友人と一緒にDIYしたり、埼玉の木材店まで足を運んでカウンター材を探したりしてコストを削減しました。店内の家具も自分で選び、細部の費用を少しずつ削る工夫を重ねたかいあって、思い出の詰まった空間がつくれたのは良かったと思います。
また、インターネット回線選びや設定が得意ではないため不安がありました。
過去に勤務してきた飲食店では回線が不安定で通信が止まり、コード決済やクレジットカードが使えなくなったり、会計システム上の注文が誰のものかわからなくなったりするトラブルが何度もありました。さらに私のお店は地下にあるので、なおさら安定して通信できるインターネットが必要です。
「安定した通信環境があって、設定も安心して任せられるインターネットを選びたい」と思い、NTT東日本の『おまかせLAN構築』を利用し、インターネット環境の設計から構築までをおまかせしました。忙しい準備期間に手間をかけず、Wi-Fiまで含めたインターネットの接続環境を構築できたので、とても助かりました。
実際にオープンしたあと、地下でも問題なくお客様からご利用いただいていますし、通信トラブルもなく快適に使えています。
『夜音喫茶 猫奈落』をオープン。自由なお店づくりが楽しい
2026年1月、念願だった自分のお店『夜音喫茶 猫奈落』を東京都台東区蔵前にオープンしました。家具と音響にこだわり抜いて空間をつくり上げたバーで、「ちょっといい席いい音楽」がキャッチコピーです。
開業1か月ほどですが、新規のお客様がリピーターになってくださることが多く、驚きつつも手応えも感じています。おかげさまで順調なスタートが切れたので、自分なりに良い空間を提供できているのかなと思っています。
現在はオーナー兼店長として、4人の優しくて頼もしいスタッフにも恵まれました。オーナーの立場になるのは初めてで、裁量も責任もすべて自分にある状況は、今までにない感覚です。
たとえば、この1か月では、お客様のアイデアから店内に猫に関連する本を置いてみたり、楽器演奏が趣味のお客様と一緒に音楽会を企画したりしました。自分の裁量でできるお店づくりが、こんなにも自由で楽しいとは思っていなかったですね。自由には責任も伴うので、しっかり気を引き締めて頑張ります。
夢を叶えるには、チャンスのタイミングをつかむことが大切
自分のお店を持つ夢を叶えてみて、差し伸べられたチャンスのタイミングが来たら、すぐにつかむことの大切さを実感しています。
今回の開業までの過程は、目の前のチャンスと転機を見逃さずに波に乗れた感覚があります。波に乗れるタイミングが来たときに勇気をもって一歩を踏み出したことで、夢の実現に近づけたと思います。
「心のよりどころとなる居場所づくり」と「ときめかせること」が今後の目標
『猫奈落』で実現したいのは、誰もがいつでも戻ってこられる、心のよりどころとなる居場所づくりです。一度来店して終わりではなく、自然と「また帰ってきたい」と感じてもらえる心地よい空間を目指して、もっと頑張ります!
運営が軌道に乗ってきたら、ほかの事業展開にも挑戦してみたいと思っています。フリーダムに進んでいきたいので、それが飲食店でなくても良くて。たとえば、お花屋さんをつくり、そこで扱う花で常連さんの誕生日をお祝いするのも素敵だなと。
私個人としては、とにかく人を「ときめかせたい」と思っています。お客さんだけではなく、働いてくれているスタッフも自分も一緒に感動できることが最終目標です。心地よいコミュニティーをつくることが好きなので、臆せずにいろいろ挑戦していきたいです。たとえば、今まで関わりのなかった界隈に飛び込むなど、行動の幅を広げていけたらと思っています。
道はひとつではない。信念は固く、選択は自由に柔らかく
キャリア選択で悩んでいる方に伝えたいことは「信念は固く、選択は自由に柔らかく」ということです。成し遂げたいビジョンにつながることであれば、どの道を選択してもOKだと思います。
私の場合は「自分もときめきながら、人もときめかせたい」という信念があります。最初はデザインで実現するつもりでしたが、飲食や空間づくりなど、ほかの手段でも形にできると気づきました。
手段をひとつに絞らず、いろいろと並行しながら進んでみてはいかがでしょうか。
<プロフィール>
NOIA(ノイア)
『夜音喫茶 猫奈落』のオーナー兼店長。学生時代のアルバイトをきっかけに飲食の世界に触れ、他業種での経験も重ねた。働く楽しさと「人をときめかせたい」という信念を再確認し、飲食を自身の軸としてキャリア転換。独立し、東京都台東区蔵前に念願の店をオープン。
(2026年2月取材時点)
夜音喫茶 猫奈落
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