韓国人の親友から突然の絶交。日韓関係に興味を持ち韓国へ
韓国の日本就職エージェント「KOREC」を運営する韓国法人、株式会社ビーウェルコリアの代表を務めています。
KORECでは「日本就職をサポートする就職カフェ『KOREC』の運営」、「求職者に対する日本企業の紹介」、「日本就職のための教育の実施」の3つを事業の柱としています。2024年の日本企業に内定した韓国人学生は約300人にのぼり、業界ではナンバーワンだと自負しています。
日本で生まれ育った私が韓国に興味を持ったのは、高校生のときでした。アメリカに1年留学していた2009年にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催されていて、決勝戦で日本が韓国に劇的勝利を収めて優勝したんです。するとそれを理由に、留学先でできた韓国人の親友から突然「絶交」を告げられたんです。
愛国心が強かった彼女にとって、敗戦は許せないことだったのでしょう。でも私はまさか自分とは関係がない野球の試合で親友を失うことになるなんて想像もしていなかったので、ショックでした。それをきっかけに日韓関係に興味を持つようになり、「もっと韓国のことを知りたい。日韓関係について学びたい」と思い、韓国の延世大学に進学しました。
大学では国際政治などを学び、卒業後は日本で国家公務員になりたいと思っていたのですが、試験は不合格でした。そこで日本のIT企業に就職しました。たまたまそこが新人でも海外勤務ができる会社だったため、卒業後はそのままベトナムで働き始めました。
ベトナムで人事担当として奮闘していたのですが、次第に「やっぱり日韓をつなぐ仕事がしたい!」という気持ちが大きくなっていき、1年で退職。韓国に戻りました。
韓国人の日本就職で民間交流。1人で悪戦苦闘しながら韓国で法人設立
韓国では日本人留学生を対象とした不動産仲介事業をする傍ら、韓国学生の日本企業への就職をサポートする団体を立ち上げて活動を始めました。
韓国は就職難で、優秀な学生でもなかなか就職先が見つからない状況が続いています。就職サポートは彼らのためになるのはもちろん、韓国人が日本で就職することは民間交流の一つなのでお互いに理解したり親近感を持ったりする機会になる。ここに携わることで、良好な日韓関係の構築につながると考えました。
それに日本で韓国に関する事業を行っている会社はたくさんありますが、当時、韓国でそれを行っている日本人は少なく、自分にしかできないことだと思いました。
韓国で日本就職を進めていくためには、「日本就職に興味を持つ韓国人学生を集める」「韓国人の採用に興味がある日本企業を集める」、この両方を同時に進めていかなければいけません。私が韓国にいながら一人でやるのは効率が悪く、日本に拠点をつくり、役割分担をしてそれぞれ進めていった方がいいと考えていました。
また当時、日本で就活カフェが流行っていて、韓国でも展開したいと思っていたほか、オフィスがなかったために就職支援の授業を行う際に不便だったので、法人化してオフィスも構えることにしたんです。
そんなとき、たまたま株式会社ビーウェルの大亀雄平社長と知り合いました。大亀社長に法人化について相談したところ意見が一致し、就職支援団体をビーウェルの韓国拠点として法人化することにしたんです。
道は決まったものの、ここからが大変でした。
韓国で会社をつくるのはもちろん初めてです。韓国の行政書士とのやりとりも、提出しなければいけない書類も、すべて韓国語。それに加えてオフィス探し、内装工事業者の選定・契約などもすべて自分でやらなければいけません。工事の見積もりが大雑把だったり、行政書士には怒られたり、文化の違いを痛いくらい感じましたね。ですがそれを乗り越えて、2019年に法人設立を実現しました。
オンライン主流の中、大事にしているオフラインでの学生と企業の交流
当時、日韓関係は冷え込んでいて日本製品の不買運動も起きていましたが、それまでの活動の積み上げもあったため、オープニングパーティーには約100人もの学生が参加してくれました。その後も登録者は右肩上がりで増えています。
日本企業への営業活動においては、大亀社長の人脈を大いに活用させていただきました。社長の紹介でいろんな企業にご利用いただき、そこから口コミで評判が広がり、今では大企業からもご依頼をいただいています。
韓国人は語学力が高く、特に若い世代は英語はもちろん、日本語や中国語を話せる人も少なくありません。また兵役義務があるので男性はストレス耐性があり、学歴社会で大学入試に向けて長時間勉強してきた経験から仕事が早く、ITリテラシーも高い。企業の担当者からもよく、魅力的な人材が多いと言われます。
コロナ禍でオンラインでの説明会や面接が広がったことをきっかけに、選考はオンラインで行われることが多いのですが、私たちはオフラインでの対話を大事にしています。
というのも、韓国は学歴社会のため、企業のネームバリューや給与額で就職先を選ぶ傾向があります。でももしかしたら名前も聞いたことがなかった企業が、その学生にとってベストかもしれない。企業の担当者に実際に会って話を聞くことで、興味がなかった分野に目を向けるきっかけになるし、運命の企業が見つかるかもしれません。これまで奇跡のような出会いをたくさん見てきたからこそオフラインイベントは重視していて、ミートアップは月3回は実施しています。
2万5000人以上が利用者登録、韓国政府とも連携!影響力をつけて、もっと日韓関係に役立つ存在に
地道な活動で認知は拡大し、登録者数は2万5000人以上、掲載日本企業数は300社以上になりました。2024年に明洞で開催した大規模イベントには日本から12社が参加、200人以上の学生が来場するなど、大いに盛り上がりました。
企業からはKORECを通して入社した韓国人が社内で活躍しており、「韓国人に対するイメージが変わった」「もっと採用したい」という声もいただいています。採用を通して、いい意味で日本人の韓国に対するイメージを変えることができていることに喜びを感じますね。
よくここまで活動を続けてこられた理由を問われるのですが、最初は学生から「内定出ました!」「先生のおかげです!」という言葉をもらえることが単純にやりがいを感じていました。今はそれに加えて、KORECとして影響力が強くなったと感じる場面が増えたことが、うれしいんです。
最近、韓国政府からのコラボイベントの提案、韓国大使館からの日本就職の状況についてのレクチャーの依頼など、政府系機関からのお声がけが増えています。これは日本就職エージェントとしてKORECの認知度が拡大したことの表れだと考えています。影響力が増せば、より多くの学生が利用してくれるようになり、日本就職が増えて民間交流が促進される。日韓関係が良い方向に向かうことにつながります。
海外に飛び出して15年ほど経ちました。学生からは海外に行くことへの迷い、挑戦への不安など、いろんな相談を受けてきましたが、私が韓国でもがきながらも一人で法人設立を成し遂げたのだから、みんなも絶対大丈夫と背中を押してきます。
いつか良好な日韓関係構築に寄与した人物として、韓国大統領府が置かれていた「青瓦台」で表彰される。今はそれが目標であり、そこに向けて走り続けます。
プロフィール:春日井萌
韓国の名門、延世大学を卒業後、日本のIT企業に就職。その後韓国で不動産仲介事業に携わる。韓国学生の日本での就職を支援する団体を立ち上げ、2019年に韓国法人「株式会社ビーウェルコリア代表」を設立し、代表取締役に就任。就職カフェ「KOREC」の運営や学生と企業とのマッチングなどを行い、日韓の民間交流の促進に取り組んでいる。




