「お酒を飲むと、私、すぐ顔が赤くなってしまうの」。
「あら、もしかして飲んでも美しくいられるお酒があることをご存知ないの?」
「夫人、それは何ですの? 教えていただきたいわ」
「女性が飲んで美しくいられるのは、、、、、、シャンパンだけですわ」
すみません、勝手に18世紀フランスの社交界を想像してみました。この「女性が飲んで美しくいられるのはシャンパンだけ」というセリフ、美貌と知性を兼ね備え、フランス国王ルイ15世から寵愛を受けたポンパドール夫人が残したものと言われています。
飲んで美しくいられるなんて夫人、サイコーです。「なぜシャンパンだけが女性を美しいままにできるのでしょう?」と質問をしたら、、、、、、
「輝きのあるゴールドカラー、キラキラしていて立ち上る美しい泡。酔って顔が赤くなっても、顔が緩んでも大丈夫。このきらびやかな泡が必ず女性を美しくみせてくれますわ」などと答えてくれそうです。
まあ、当時のシャンパンが現在のそれと同じく澄んでいて、泡立ちがよく、持続性があったわけではないのでしょうが。
さて、ここでシャンパンを飲むときのグラスの持ち方について。私はベーシックにグラスの脚(柄)の部分を持つことをオススメします。ボウルの部分を持ってもマナー違反でもなんでもないという意見も耳にするけれど、手の熱が伝わりせっかく冷えているシャンパンがぬるくなってしまうし、グラスの底から上へ上へと華やかに上っていくときの泡の起点、隠してしまってはもったいない!
つぎに、シャンパンを飲むときのグラスの話を。まず、デザートの器にもなるようなフォルムのクープ型。これ、実はルイ15世を喜ばせるため(汗)、ポンパドゥール夫人が自身の胸を型取り、作らせたのが始まりとされています。そう、なんとクープ型シャンパングラスの産みの親は、夫人だったんです。うーん、女性の胸をかたどったグラスについてのコメント、ちょっと思い浮かびません。このクープ型、口が広いので継ぎ足しせず注げることから、大人数のパーティなどでよく使われます。でも、残念ながら、せっかくの泡が逃げていくように広がってしまいます。
現在、泡のシーンで主流なのは高さのあるフルート型。泡立ちがバッチリ楽しめます。ただ、口径が狭く一気に注ぐことはできないので、何度か継ぎ足さなければならないのです。 そのほか、ふだんワインを飲む時に使うチューリップ型のグラスに入れることも。例えば、少し高級なシャンパン、年代が進んだもの、香りをより楽しみたいときというシチュエーションで登場します。セオリーはありながら、場と雰囲気に合わせてグラスは自由に選んでも楽しいです。
ところで、シャンパンはブリュット(辛口)、ドゥミ・セック(やや甘口)など味わいもさまざま。大多数は辛口のブリュットで、一番多く造られているタイプです。では、ポンパドゥール夫人が飲んでいた時代のお味は? それは、今では考えられないくらい、あまーーーーーい味わいだったんです。ブリュットが誕生し、辛口が飲まれるようになったのは1860年代のこと。つまり夫人が生きていた間は甘いシャンパンが主流でした。
「あら、甘いシャンパンが恋を誘い、それでまた女性は美しくなるってご存知なかったの?」という夫人の声が聞こえてきそうな。。
ということで「飲み過ぎじゃない? ねむそーだよ。顔が緩んでるよ。頬が重力に従いすぎだよ」と言われたって、気にすることなくこれからもシャンパンを飲んでいきたいと思います(謎)。
すどうみほこ
エッセイスト/ワイン&フードスタイリスト
1968年東京生まれ。夫、娘、小型犬とともに東京在住
青山学院大学社会学情報学部ヒューマンイノベーション科修了(修士)。
明治学院大学フランス文学科を卒業後、ワインメーカーに入社。その後、フリーランスとなりワイン・食に関する執筆、講師などをして活動している。
著作に「シャンパン&スパークリングワイン」(主婦の友社)、「フランスAOCワイン事典」(三省堂 共著)、「おいしいワインの基礎知識」(KKベストセラーズ)、寄稿に「Winart」(美術出版社)ほか。
ワインアドバイザー(社団法人日本ソムリエ協会)
シュヴァリエ(フランスチーズ鑑評騎士の会)
シュヴァリエ(シャンパーニュ騎士団)
インスタグラム
https://www.instagram.com/dessinerlasaveur/