一度目の転職で「やはりモノづくりがしたい」と再確認
新卒で入ったのは、外食チェーンや自動車ディーラーなど、さまざまな企業のWebサイトを作る制作会社でした。モノづくりやコトづくりをやってみたくて入社を決め、WebディレクターとしてWebサイトの企画や制作管理などをしていました。
当時、IRサイトを制作する際に企業の経営者にインタビューを行うこともありましたが、自分からの提案に自信が持てないモヤモヤ感があったんです。一方で経営者の皆さんは数字を根拠にした明確な基準や指標を持っていて、ビシッと判断ができる。「しっかりとした判断基準を持って方向性を決められるのは、すごく素敵だな」と思い、経営者を数字の面からサポートする税理士の仕事に興味を持ちました。
Webディレクターの仕事をしながら独学で簿記2級の資格を取り、税理士事務所に転職した経緯があります。税理士試験の合格も目指して2年弱ほど働きましたが、やはり「モノづくりやコトづくりに関わっていたい」という気持ちが次第に湧いてきてしまって……。このまま長い年月をかけて税理士を目指すか、もう一度切り替えてモノづくりの世界に戻るか考えて、再び転職にチャレンジすることにしました。
「せっかく転職するならWebに限らず幅広い分野のモノづくりに携わりたい」と思い、そのとき出会ったのが共同印刷でした。転職先探しのために訪れた合同説明会で共同印刷の人事担当と意気投合し、会社見学や面接もコミュニケーションの中でトントン拍子に進んで。他社の採用試験を受けることなく、共同印刷への転職が決まりました。本当に良いご縁をいただいた転職だったと今でも思います。
新しい領域でのモノづくりが面白い

共同印刷は、創業120年を超える総合印刷会社です。入社したのは2014年でした。働いている社員に良い人が多く、コミュニケーションも取りやすい。職場環境から雰囲気の良さを感じることができました。
仕事面ではWeb制作会社の経験があったにせよ、新たな分野のモノづくりになるため正直大変でした。ただ、モノづくりの世界にもう1回向き合おうと決めて転職したので、仕事の大変さは苦ではなかったと思っています。
転職後は、印刷の枠にとらわれない新しい領域やサービスの企画・開発・販促・営業に従事してきました。お客様の数も案件も多岐に渡りますし、一緒に協業するパートナー会社もたくさんいらっしゃいます。「オーダーさえ受ければできないものはない」というくらい幅広い仕事ができて本当に面白さを感じました。
常に感じていた育児と仕事を両立する不安
「モノづくりがしたい」という思いのほか、結婚・出産などライフステージが変わっても働き続けられる環境があったため、共同印刷へ転職しました。しかし、転職したばかりのタイミングで出産・育児も始まるとキャリアを積めませんし、子どもを持つことに対して常に悩んでいました。
新規開発のような案件は比較的ロングスパンで進んでいくので、途中で休むことになってしまいます。「休んでいる間、誰に仕事をお願いすればいいだろう」とか「いつだったら安心して子どもを産めるのだろう」と悩みは尽きませんでした。
しばらくして第一子の妊娠がわかって職場へ報告したとき、上司や周りのメンバーから快く受け入れてもらえたのですが、「どう思われるんだろう」「いきなり仕事から外されたらどうしよう」というような不安とドキドキ感は、どうしても拭いきれなかった記憶があります。
周りからの協力も得て約1年半の産休・育休期間に入りました。いざ休みに入ってみたら「自分はこのままで大丈夫だろうか」という不安と焦燥感に襲われました。実は、産休前にいた部署に配属されてから半年で休みに入ったため、何の成果も上げていない状況だったんです。「復帰後、生活の中に子どもがいて、ちゃんとパフォーマンスを上げていけるんだろうか」「会社・社会で生き残るために自分は何をしたらいいのだろうか」と、ものすごくモヤモヤしていました。
オフィシャルな会社との接点は1〜2ヶ月に1回送られてくる社内報だけです。復帰後の仕事や生活、社内の様子はわからなかったため、同僚とのミーティングの場を設けてもらい、自分から会社と接点を持つようにしていました。会社とのつながりは定期的に維持していたものの、育児と仕事を両立しているロールモデルが身近におらず、心のモヤモヤは消えなかったように思います。
そんなとき別部署で育休取得中の方がいると紹介いただいて、直接お話することができたんです。その方は第二子の育休中だったので、復帰後の生の声を具体的に教えてもらったり情報交換したりすることで不安軽減につながりました。
育休時の思いと経験から生まれた「TriAnchor(トライアンカー)」

第一子の育休期間は本当に不安で、育休同期の方と話せたのは大きな救いになったと記憶しています。2021年の春に復帰後、自社起点でサービスを開発していく部署にいたこともあり、「育休中の不安を軽減しながら横のつながりをつくったり、意見交換したりできるプログラムがあったら前向きに復帰を迎えられるのでは」と思うようになりました。同じような不安を抱えているのは私だけではないと思ったんです。
私自身の経験が元になってサービスの開発が進み、2022年9月にチーム復職実現プログラム「TriAnchor(トライアンカー)」をローンチしました。
TriAnchorは、企業のダイバーシティ推進を支援する育休取得者向けの教育プログラムです。育休&共働きコミュニティikumadoと協業し、育休取得者や仕事・家事・育児の両立期社員の「課題」に寄り添う内容になるよう開発しました。自分とパートナーと会社の3者がトライアングルのようにチームを組み、これからのキャリア形成に向けて自分自身のブレない価値観を見つけて挑戦してほしいという願いをサービスに込めています。
参加者同士のコミュニケーションを主体として仕事面を支援する「復職支援プログラム」と、復職後の心と時間に余裕を持ってもらうために家庭面を支援する「両立支援プログラム」の2つからなるオンライン講座で構成されています。
講座では、まず自身の強みや理想の働き方を内省し、パートナーとも話し合う機会を設けます。パートナーと考えた復職後の家庭と仕事の両立を実現するために、職場とどのように連携し、良好な関係を構築していくのかヒントも提供。さらに、時短料理や整理収納術など気持ちよく生活するための実践的な知識も学べるようになっていて、不安を軽減しながらスムーズな復職をサポートしています。
こうした連続性のあるオンラインプログラムで、両立環境を整えたり自分自身のマインドセットをしたりパートナーとの連携を図ったりできるものは、ほかにはないと思っています。育休中に同じ課題を持つ人たちが集まって一緒に意見交換できる場は、非常に有意義ではないでしょうか。受講者の方々は主体的に参加されているので、お互いの対話の中から新たな発見ができ、視野が広がることもあるそうですよ。
第二子の育休後、管理職として復帰へ

2023年に第二子の産休に入るまでTriAnchorを育てながら、そのほかのサービスにも携わっていきました。それと並行して幹部職員になるための昇進試験も受けていて。第二子妊娠がわかり、産休・育休を取得したいと上司に相談したところ「おめでとう。こちらからも報告があって幹部職員に受かったよ」と、偶然にも同じタイミングで嬉しい知らせがありました。
第二子のことも考えながら昇進するのは不安でしたが、会社も両立していく働き方を応援してくれたので、自信を持って産休・育休を取得し、2024年5月に課長職として復帰しました。現在はTriAnchorをはじめ、育児や介護などの両立課題に応えるサービスの企画開発に携わっています。
まだ管理職としてやりがいを感じるところまで至っていませんが、一社員だった頃とは違い、経営側の視点から会社や組織の状態を見ていかなければならないので、視座の広がりを感じられた点は面白いと思っています。新しいことに挑戦し、深めていくところに面白さを感じるほうなので、会社員を続ける中でも世界が広がっていくのは楽しいですね。
さまざまな両立期の課題に応える切れ目のない支援サービスを提供したい

これからは、誰もが自分らしく楽しく働き続けられる会社や社会をつくる一助を担いたいと思っています。
現在、子どもは5歳と1歳半になりました。これから子どもの成長とともに小学校・中学校に入学し、高校・大学受験を迎える日が来ます。もしかしたら家族の介護の問題で悩むこともあるかもしれません。そのようなライフステージの変化がある中でも家庭と仕事を両立しながら、自分の人生も大切にしながら継続的に働き続けられる両立支援サービスを拡大していきたいです。
育休取得者を対象とするTriAnchorを軸として、さまざまな両立期の課題に応えられる、切れ目のない支援サービスの開発と提供を実現したいと思っています。
<プロフィール>
遠藤美菜子
Web制作会社、税理士事務所での実務を経て2014年に共同印刷株式会社へ入社。二度の産休・育休を取得し、現在は情報コミュニケーション事業本部 学びビジネス推進部 コンテンツプロデュースグループ課長として活躍する。自身の産休・育休取得時の思いと経験が、チーム復職実現プログラム「TriAnchor」を開発するきっかけになっている。
(2025年1月取材時点)
共同印刷株式会社:https://www.kyodoprinting.co.jp/
チーム復職実現プログラム「TriAnchor」:https://www.kyodoprinting.co.jp/lp/trianchor/