「ゲーム理論」とは?
「囚人のジレンマ」についてご紹介する前に、「ゲーム理論」についてまずご紹介します。
「ゲーム理論」というのは、ジョン・フォン・ノイマン(1903-1957)という天才の伝説的な数学者が始めたジャンルです。
量子力学のパイオニアであるジョン・フォン・ノイマン(1903-1957)は、コンピューターの原理を考えた人であり、アメリカが核兵器を開発することを推し進めた人であり、全てのジャンルに手を出して影響を世の中に与えています。
「ゲーム理論」は、ジョン・フォン・ノイマンの一つの発明です。
いろいろなゲームが世の中にはありますが、「ゲーム理論」で取り扱うゲームは、ルールに従って参加しているプレイヤーたちが自分の手を選んで、全員の手によってそれぞれのプレイヤーの勝敗や得点が決まるものです。
そのため、将棋やチェス、囲碁などをイメージするかもしれませんが、ジョン・フォン・ノイマンとしては、「将棋やチェス、囲碁はゲームではない、単なる計算である」という感じでした。
将棋やチェス、囲碁などは、プレイヤーとして最善の取るべき手が、駒の配置でだけ決まって計算ができます。
そのため、プレイヤーは意思や自由が選択できません。
これは、事実であり、「ゲーム理論」の研究対象にはこのようなゲームはなりにくくなります。
では、「ゲーム理論」の研究者が研究対象として面白いと思うのはどのようなものでしょうか?
「ゲーム理論」の研究対象として代表的なものは、「囚人のジレンマ」です。
「囚人のジレンマ」の意味とは?
ここでは、 「囚人のジレンマ」の意味についてご紹介します。
一つの「ゲーム理論」である
「囚人のジレンマ」というのは、経済学から誕生した「ゲーム理論」の一つの理論モデルです。
「ゲーム理論」でも「囚人のジレンマ」が最も有名なもので、「社会的ジレンマ」ともいわれています。
アルバート・タッカーという数学者が、1950年に考えました。
「囚人のジレンマ」は、寓話によって、2人の別々に拘束された囚人が合理的にそれぞれが選んだにも関わらず、望ましくない結果にお互いにとってなるというジレンマを説明したものです。
「囚人のジレンマ」は、社会学や経済学、政治学だけでなく、文学や哲学、心理学にも非常に影響を与えました。
「囚人のジレンマ」の寓話
ここでは、「囚人のジレンマ」の寓話についてご紹介します。
罪を共同で犯した2人が逮捕されて、刑務所に拘留されました。
警察は証拠が十分になかったので、取引することをこの2人に持ちかけました。
別室に2人は拘留されていたため、相談がお互いにできませんでした。
それぞれに警察から示された取引は、次のような内容でした。
- 自白しないと2人とも1年の禁固刑になる
- 自白が1人だけであれば、すぐに自白した人は釈放されるが、5年の禁固刑に他の1人はなる
- 自白を2人ともすれば4年の禁固刑に2人ともなる
2人の囚人は、このような提案に対して「自白すべきか」「黙秘すべきか」ということで悩みました。
相談ができないと、合理的なのは2人とも自白しないで1年の拘留を選択することですが、相手の対応がわからないので、先に相手が自白すると禁固5年に自分のみがなるため、2人とも最終的に自白するようになりました。
相手が信用できないので協調がお互いにできない
「囚人のジレンマ」は、相手が信用できないので協調がお互いにできないものです。
また、自分の利益のみをそれぞれが追求すれば、合理的な結果にお互いにとってならないこと、または、合理的に個人が行動すると上手く世の中は回るはずである、というような素朴な合理性についての矛盾を説明したものです。
世の中のいろいろなシーンにおいて、「囚人のジレンマ」は起こり得ます。
また、「囚人のジレンマ」は、先に自白した人のみ無罪するという人の心の弱さをついた取引です。
そのため、「囚人のジレンマ」は人の弱さを説明するときに使うこともできます。
「共有地の悲劇」は「囚人のジレンマ」と構造が同じである
「囚人のジレンマ」は社会的な状況の中で起きたため、「社会的ジレンマ」ともいわれています。
代表的な「社会的ジレンマ」のモデルとしては「共有地の悲劇」があり、「囚人のジレンマ」と構造は同じです。
「共有地の悲劇」は、羊あるいは牛の放牧の寓話が原話になっています。
共有地で何人かの村人が羊を放牧し、お金に羊を換えていました。
多くの羊に誰もが草を多く食べさせようとしたので、共有地にはそのうちに草が生えなくなって羊が飼育できなくなり、全ての村人が破産しました。
全体の共有地のことを考慮して羊を少なくする人がいれば、羊を少なくしなかった人の羊が草を多く食べて太るので、得をするのは自分の利益を優先した人になります。
誰もが自分の利益を優先したので、「囚人のジレンマ」と最終的に利益を誰もが失くす利得構造は同じになります。
地球資源の枯渇問題や地球の温暖化問題などのように、世界規模で地球環境を共有するときに起きる問題に対して、このような「社会的ジレンマ」が適用できます。
ビジネスシーンで「囚人のジレンマ」を利用する方法とは?
「囚人のジレンマ」はビジネスシーンで利用することができます。
例えば、原価に関係する相場が高くなったときは、値上げ競争になります。
そのため、ライバル他社と一緒に値上げすると、価格を互いに変えないよりも利益が確保できます。
しかし、値上げは自社のみで値上げを他社が行わないときは、単独で他社に大幅に売上を取られることがあるので、相手の出方をお互いに見ながら対策する必要があります。
ビジネスシーンでも、このように「囚人のジレンマ」が利用されています。
営業戦略で「囚人のジレンマ」を利用する方法とは?
自社品を売り込むときに差別化を他社と行うのが困難なときは、価格が最後の決め手になります。
他社にどうしても取られたくない取引先のときは、価格を他社よりも安くすると獲得できるでしょう。
しかし、他社も価格を同じように安くしてきたときは、価格競争が起きます。
また、「ゲーム理論」の中には、相手の選択肢を狭くするために「先にどのような先手を自分が打つか」ということを明確にして、自分が狙ったように誘うようなものもあり、「囚人のジレンマ」は営業戦略の中で自然に行われています。
ビジネスでの「囚人のジレンマ」の応用例とは?
ビール会社は、ビールの原価が穀物類や原油価格の高騰によって高くなって、従来と同じような利益を確保するには価格を高くするしかない状態になっていました。
そのため、ビール会社の多くが値上げをしましたが、価格をサントリーのみは変えませんでした。
というのは、4位のマーケットシェアをアップするための作戦でした。
サントリーは、最終的に、上手くこの「囚人のジレンマ」の戦略が当たって3位になりました。