「転籍」の意味とは?
「転籍」の意味としては戸籍を移すということがありますが、ここでは「転籍出向」という一つの「出向」である「転籍」についてご紹介します。
他の企業に異動する「出向」としては、「転籍出向」と「在籍出向」がありますが、一般的に「転籍」は「転籍出向」、「出向」は「在籍出向」のことをいうときが多くあります。
「転籍」のときは、元の企業を辞めて「転籍」した企業の社員になるので、福利厚生は「転籍」した企業のものに変わります。
一般的に、「転籍」する企業はグループ企業や関係企業などのときが多いので、福利厚生における待遇は元の企業に比較して傾向的には悪くなります。
単なる異動や出向と「転籍」は同じものであると思っていれば、「このようなはずではなかった」というときがあるので注意しましょう。
「転籍」の手続きとは?
「転籍」は一つの「出向」のスタイルですが、社員を他の企業に異動させる以外に、籍も移すものです。
そのため、労働契約を出向元と解除して新しく異動先と結ぶので、一旦元の企業を辞めるようになります。
このことが、出向や異動のように元の企業に籍を置いたままになるものとは違っています。
「転籍」のときは一旦企業を辞めるようになるので退職金が支払われますが、企業によって「転籍」によって退職金が支払われる金額や時期は違っています。
一般的に、「転籍」になって元の企業を辞めるときには退職金が支払われます。
しかし、退職金は「転籍」した企業に引き継ぎされて、定年退職するときに支払われるようなこともあります。
企業の人事辞令によって「転籍」は行うものであるため、「転籍」のときは「会社都合退職」になります。
「転籍」した企業ですぐに仕事をするので、大切な意味が退職理由にあるということではないと考えるかもしれません。
しかし、退職理由を「転籍」するときの書類などに書くときは、「会社都合退職」と書きましょう。
というのは、退職金を後日支給されるようになるときの金額にも影響するためです。
「転籍」と「出向」の違いとは?
正式には、「転籍」は「転籍出向」、「出向」は「在籍出向」とそれぞれいいます。
「転籍」も「出向」も別の企業に移って、新しい企業の指揮命令によって仕事をすることですが、大きな違いが実際にはあります。
「転籍」は、労働契約を元の企業と解除して、「転籍」した企業と労働契約を新しく結ぶもので、元の企業に将来的に帰る保証はありません。
なお、「転籍」としては、次のような2つの方法があります。
- 社員の了解を得て労働契約を解除して、「転籍」した企業と労働契約を新しく結ぶ
- 元の企業から「転籍」した企業に、権利を労働契約上の使用者として譲る
前者は普通の「転籍」で、後者は企業が倒れたなどによって事業を譲るときの方法です。
しかし、後者は「転籍」が元の企業を一旦辞めることとセットであるため、社員の個別の了解が必要になります。
一方、「出向」は、労働契約を元の企業と結んだままで、「出向」した企業で仕事をすることです。
また、一般的に、「出向」は元の企業に将来的に帰ることが前提になっています。
「出向」のときは、労働契約が元の企業と続いているので、包括的同意があると、社員に対して企業は「出向」の命令ができるとされています。
このときの包括的同意というのは、出向元の企業に「出向を業務上の必要があると命令する」などの労働協約や就業規則などがあり、しかも「出向」したときの労働条件などが決まっているケースです。
人事については、このような就業規則についてもチェックが必要といえます。
なお、法律で「出向」については「権利を企業が濫用すること」を禁止しており、「出向」を命令するときは、その必要性や理由を企業側がはっきりさせることや、労働条件が悪くならないように気配りすることも大切になります。
労働契約法では、このような条件をはっきりさせないで、権利を企業が濫用していると認められたときは、「出向」が無効になることも決められています。
基本的に、「転籍」は元の企業を辞めて別の企業に移る異動であり、「出向」は元の企業に籍を置いたまま別の企業で一定期間仕事をすることであると把握しておきましょう。
「転籍」を了解したときに発生するトラブルを防ぐためには?
「転籍」した後の企業は、「転籍」する前の企業が社員に示した内容の労働契約を結ぶ必要があるという義務はありません。
そのため、もし「転籍」する前の企業が示した内容が事実と違っているときは、トラブルが「転籍」した後の企業との間で発生してしまいます。
未然にこのようなトラブルを防ぐためには、「転籍」する前の企業を辞める前に、労働契約を「転籍」する企業との間で結んで、証拠を労働契約書という書類で残しておく、あるいは「転籍」する前の企業と「転籍」する企業と本人が同じ時刻に同じところで協議を行って、「転籍」する企業の労働条件についてお互いに了解する必要があります。
最もおすすめなのはその協議の場に弁護士に同席してもらうことですが、これができないときは、契約書に協議の場で署名捺印しないで、一度持ち帰って法律専門家の弁護士などにチェックしてもらうのも方法の一つとして有効でしょう。
いずれにしても、「転籍」する前の企業がいうことをそのまま信用して辞めて、「転籍」した企業との間で労働契約について交渉することはリスクがあります。
そのため、「転籍」のときは、「転籍」する企業が「転籍」した後の労働条件などに関して直接了解しない限り、「転籍」する前の企業を辞めないように注意する必要があります。
グループ企業に「転籍」するときのポイントとは?
「転籍」は、グループ企業がいくつもあるような企業では割合よくある一つの配置転換です。
ここでは、グループ企業に「転籍」するときのポイントについてご紹介します。
「転籍」はネガティブなイメージではない
グループ企業の中での「転籍」は、企業の命令に従うということで一つの業務遂行と考えることができます。
一方、小説やテレビドラマなどで目にするように、「転籍」は左遷や懲罰というようなニュアンスで理解されているときがあります。
そのため、「転籍」についてネガティブなイメージを持つときがありますが、企業の命令による「転籍」はデメリットを社員に与えるものではありません。
書類や面接で有利にする方法
転職するときなどの履歴書には、「転籍」について虚偽を書かない方が、デメリットをむしろ防止することができます。
ネガティブなイメージを持たれることが恐ろしいときは、「転籍」になった理由を「営業力を強くするため」「グループ企業の再建サポートのため」などと書くことも一つの方法です。